ビッテンフェルト一家が新居での生活にも慣れ、心配していたルイーゼの母親への後追いもようやく落ち着いたある晩、ビッテンフェルトがワーレンを伴って帰宅した。
玄関先で妻のアマンダが、来客のワーレンを出迎える。
「帰り道、偶然ワーレンを見かけたんだ。だから<これはチャンス!>と思って、無理やり連れてきた!」
にこやかに告げるビッテンフェルトの隣で、ワーレンが申し訳なさそうに伝える。
「すみません奥方、遅い時間に突然押し掛けてしまって・・・」
恐縮するワーレンに、アマンダが伝える。
「いいえ、お気になさらないでください。前々からフリッツはワーレン閣下を、是非、我が家にお招きしたいと言っていたのです。夫婦で閣下が来るのを待っていたのですから、どうぞ遠慮なさらずにお入りください!」
そう言いながらアマンダは、ワーレンを家の中へと招き入れた。
「ルイーゼは起きているか?」
夫の問いにアマンダが首を振る。
「申し訳ありません。生憎ルイーゼはもう眠ってしまって・・・」
「だろうな・・・。まあ、こんな時間だし仕方ないか・・・」
娘をワーレンに披露したかったビッテンフェルトが残念がる。
「奥方、娘さんのお顔は、ビッテンフェルトから写真で見せて貰っていますからお構いなく!それこそ会うたびに、毎回違う写真をね」
「あら・・・」
職場でも親バカぶりを発揮している夫の様子に、アマンダが苦笑する。
妻に外での自分の行動を見透かされたような気がしたビッテンフェルトは、「さあ、ワーレン、飲みながらゆっくり話そう!」と急いで僚友を促し、その場をやり過ごしていた。
酒のつまみを用意して席に着いたアマンダを、ビッテンフェルトは改めてワーレンに紹介し、二人はお互い挨拶を交わす。
ワーレンは以前の軍人時代のアマンダを知っている。何といってもワーレンは、あのハイネセンの殴打事件のとき、ミュラーと共にその場にいたのである。しかし、当のアマンダとは話した事もなければ、その後は顔を合わせる機会もなかった。
ビッテンフェルトから結婚した相手がアマンダだと知らされたとき、ワーレンはその組み合わせに驚いたものである。
酒がすすみ場が和んだ頃、ワーレンがアマンダに問い掛けた。
「実は、ずっと疑問に思っていたことがあって・・・」とワーレンが前置きしてから、アマンダに問いかける。
「私としては、あなたが何故このビッテンフェルトと結婚したのか不思議でしょうがない。その辺のところを、是非、直接貴方からお聞きしたいと思っていました」
このワーレンの質問に、ビッテンフェルトは<俺もホントのところが知りたい。だが、アマンダの本音を聞くのは怖いところでもある!>と瞬時に判断し、アマンダより先に反応した。
「なんだよ、ワーレン!俺たちにはルイーゼがいるんだぞ。結婚したって別におかしくはないだろう!」
自分の不安を打ち消すように大声になったビッテンフェルトに、ワーレンがすました顔で問い掛ける。
「確かにお前にとっては、娘の存在は結婚の大きな理由だったかも知れない。だが、奥方的にはどうなんだろう・・・と俺は思っていたんだ。子どもの存在をお前に伝えずにいたって事は、奥方は娘との生活に父親の必要性を感じていなかったんだろう?」
「うっ・・・」
ワーレンに痛いところを突かれ言葉に詰まったビッテンフェルトが、それを誤魔化すように持っていたグラスの中のワインを一気に口に含んだ。そんな夫を見つめながら、アマンダが謎めいた微笑を浮かべてワーレンに告げる。
「フリッツとの結婚を決めたのは・・・<お告げ>があったからです・・・」
妻の意外な言葉に驚いたビッテンフェルトは、口に含んでいたワインを思わず吹き出した。その結果、目の前にいたワーレンの顔は、すっかりワインまみれになってしまった。アマンダが慌ててワーレンに詫びを入れる。
「すみません、ワーレン閣下。今、お顔を拭くタオルを持ってきますので・・・」
そして、目がまんまるになっているビッテンフェルトに告げる。
「フリッツもそんなに驚かなくても・・・冗談ですよ!」
急いで部屋から出ていくアマンダを、ビッテンフェルトが呆気に取られたような顔で見つめていた。
「おい、ビッテンフェルト、なんて顔をしているんだ?」
ハンカチで自分の顔を拭っていたワーレンが、口を開けてぽかんとしている僚友を見て呆れる。
「いや、スマン、あいつが冗談を言うなんて!・・・俺、アマンダの冗談を、初めて聞いたかも?」
自分の妻の予想外の姿に、新鮮な反応を示すビッテンフェルトを見て、ワーレンが新婚の夫らしい初々しさを感じクスッと笑う。
「彼女の言う通り、ホントにお告げがあったのかも知れないぞ!」
「まさか!」
思わず否定したビッテンフェルトだが、ふと気を取り戻しワーレンにおずおずと問いかける。
「ワーレン、<お告げがあった>ってどういう意味だろう?」
「えっ?・・・夫のお前が理解できないのに、俺が判る訳がないだろう!それに、あれは単なる冗談なんだろう?」
「いや、あいつの事だから、何か隠れた意味があるのかも知れない・・・」
腕組みをして考え込むビッテンフェルトに、ワーレンが首を振る。
(いつも余計な一言で周りを振り回すビッテンフェルトが、彼女の言葉に振り回されている・・・)
珍しい僚友の姿に、ワーレンがからかった。
「さすがのお前も、恋をすると乙女のようにチョットした事でも不安になるんだな!」
「なんだよ!それ!」
ビッテンフェルトがムッとしたとき、アマンダが戻ってきた。
「すみません、ワーレン閣下。これでお顔を拭いてください!」
ワーレンが、アマンダの差し出した温かいおしぼりを受け取り、顔を拭いてさっぱりさせる。そして、一息ついたワーレンが、再びアマンダに質問する。
「奥方、私の質問は、冗談にしてはぐらかさなければならないほど難しかったですか?」
「いえ、そういうつもりではなかったのですが・・・」
アマンダが思わず苦笑する。
「おい、ワーレン、もういいだろう?」
「ん!」
<深く追求するな!>とばかりに目で訴えるビッテンフェルトに対し、ワーレンは<お前の疑問を晴らしてやろうとしてるだけさ!>と何食わぬ顔で面白がる。しかし、アマンダには一応、気遣うように問い掛ける。
「私は、チョットしつこいですか?」
そんなワーレンに、アマンダは否定しながら応じる。
「そんな事はありませんよ。まあ、フリッツと結婚した理由を強いて言えば、彼は私にはない部分をたくさん持っているので、そこに惹かれたのかも知れません」
「なるほど、そうきたか・・・。だが、ありきたりだが結婚のきっかけというのは、案外そういうものかも知れない。自分にない物を持っている相手に、人は惹かれパートナーに選ぶ。ある意味、自分と違う人種の掛け合わせで、より良い子孫を残そうとする人間の本能が働くのかも・・・」
ワーレンの見解に、アマンダは首を振りながら伝える。
「そんな大袈裟な理由でもありませんが・・・。成り行きといいますか、気が付いたら元帥夫人になっていました」
「ははは。まあ、大体は想像が付きます。こいつ、強引でしょう?」
親指で軽くビッテンフェルトの方を示しながら、ワーレンが告げた。
「ええ、前向きな性格ですね」
アマンダもワーレンに同意して、二人とも苦笑いで顔を見合わせる。
しかし、肝心のビッテンフェルトの方は、先ほどアマンダが打ち明けた<自分に魅かれた>という言葉に舞い上がって、その後の二人の会話は全く耳に入っていなかった。
「アマンダになくて俺にあるものって何だろう♪」
ニコニコ顔で二人に問い掛けるビッテンフェルトに、ワーレンが<調子に乗るな!>とばかりにグサグサと釘をさす。
「うん、たくさんあるぞ!まず、思い込んだらあとさき考えずに感情のまま突っ走って、周りに迷惑を掛けてしまう行動。それから、空気を全く読まないというか読めない鈍い神経。そして、デリカシーがない厚かましさと自己中心的な性格。他にも・・・」
「おいおいワーレン、もう、いいよ!全く、よくそんなにスラスラと俺の悪口が出るもんだ!」
呆れ顔のビッテンフェルトに、ワーレンが自信をもって断言する。
「悪口?いや、事実だろう!」
そう言うとワーレンは、アマンダに同意を求めた。
「奥方!奥方がいた当時の軍務省でも、ビッテンフェルトの評価はこんなもんでしょう?」
「ええ、まあ・・・でも、そこまで誇張されてはいませんが・・・」
苦笑しながらも止めを刺すアマンダの言葉に、(そうだったのか・・・)とビッテンフェルトの顔が引きつってきた。そんな夫にアマンダが告げる。
「黒色槍騎兵艦隊の方々にとっても、オーベルシュタイン閣下の評価は、結構低いものでしたでしょう?お互いさまですよ」
「まあ、確かに俺んとこも奴の事はボロクソに言っていたからなぁ~。お互いさまと言えばそうかも知れないが・・・」
納得して頷くビッテンフェルトに、アマンダもやわらかい表情になる。しかし、ビッテンフェルトの内心はオーベルシュタイン絡みの話題になりそうな気配を感じて焦っていた。そして<油断は禁物>とばかりに、会話の流れを変えようとした矢先に、ワーレンがアマンダに問いかける。
「奥方は、亡きオーベルシュタイン軍務尚書の事をどう思われていましたか?」
(シマッタ!ワーレンに奴の話題に触れるなと口止めするのを忘れていた~~)
アマンダはビッテンフェルトの様子を窺いながら伝えた。
「オーベルシュタイン閣下は、部下であった私にとっては信頼のおけるよき上官でした。只、部下として見るのと、外から見るのとでは印象が違ってくるのは仕方がないと思っています」
「確かに立ち位置が違うと、見方や感じ方で、同じ人間が違うモノに見えてくる」
ワーレンが頷いた。そして、更に別の質問をする。
「以前、オーベルシュタイン元帥亡き後、軍務省では彼の片腕だったフェルナー准将を始め多くの部下達が退役しましたよね。確か、奥方もその一人でした。私はその傾向に、<軍務省の軍人たちの忠誠心は、ローエングラム王朝ではなく軍務尚書個人に向けられていたのか?>と感じたものです。奥方的には、どう思われましたか?」
ワーレンの質問に、アマンダが当時の様子を思い出しながら応じる。
「確かにあのときの退役は、偶然というには不自然と言える人数でした。只、私には他の方達の本当のところは判りません。私個人の事でいえば、軍人でいる理由がなくなったから退役しただけで・・・」
無難な言葉で応じるアマンダに、ワーレンが更に踏み込んで問い掛ける。
「では、仮にオーベルシュタイン元帥が健在だったとしたら、それでもあなたは軍人を辞めていましたか?」
少し言葉を選んでいるようなアマンダが、ふと夫の顔を見てワーレンに伝えた。
「ワーレン閣下、そろそろこの話題は切り上げませんか?フリッツは、私の昔の上官の話になりますとご機嫌が斜めになるんです。ほら、今も眉間に皺が寄って難しい顔になっているでしょう」
苦笑いのアマンダに、ワーレンも先ほどから話さなくなっていたビッテンフェルトの顔を確認する。
「おいおい、相変わらずお前は、感情がモロに顔にでるな~。大変でしょう、こんなのが旦那では?」
僚友の顔を見て呆れたワーレンが、アマンダに問い掛ける。
「いいえ、そういうところも私にはない部分ですので・・・。フリッツは、自分に嘘が付けない正直なタイプなんだと思っています」
「モノはいいようだ・・・」
首を振るワーレンに、アマンダが更に伝える。
「それに一緒に暮らすようになって、フリッツのポジティブ思考には、いつも感心しているんですよ。<見習わなくては!>と思っています」
そんなアマンダに、ワーレンも頷く。
「まあ、確かにビッテンフェルトの<根拠がないのに自分の都合のいい方に捉える!>という特技は、見る方向によっては長所に繋がるかも知れない!だが奥方、あまりこいつを甘やかしてはダメですよ!ビッテンフェルトは、すぐ図に乗ってつけあがりますから・・・。私は士官学校時代から、こいつの尻ぬぐいを何度もやっていた悲惨な経験から忠告します」
悲惨な経験と言いながらもどこか懐かしそうに笑うワーレンに、アマンダが尋ねる。
「フリッツとワーレン閣下は、士官学校時代の同期生でしたね。その頃のフリッツの武勇伝を教えてもらえますか?」
「武勇伝というか、ビッテンフェルトが調子に乗ってやらかした失敗談は、たくさんありますよ」
話題は、ビッテンフェルトとワーレンの士官学生時代の楽しい思い出話に移っていた。
「それにしても、ビッテンフェルト、お前が結婚する奇跡が起こるとはな!俺は、お前はずっと独り者だろうとばかり思っていたよ」
「羨ましかったら、お前も結婚すればいいだろう!」
ビッテンフェルトがいたずら小僧のように舌を出す。
「俺?俺は既に家庭を持っているぞ!」
軽く笑ったワーレンの反論に、ビッテンフェルトが彼のグラスに新たなワインを継ぎ足して尋ねる。
「再婚はしないのか?彼女が亡くなってから随分経つ。もう、新しい暮らしを始めてもいいんじゃないのか?」
しんみりと問い掛けるビッテンフェルトに、ワーレンが小さなため息をついた。
「俺には彼女の忘れ形見がいる。やっといい関係になったのにそれを壊したくない」
そんなワーレンの言葉に、ビッテンフェルトはわざとおどけるように問い掛ける。
「やっといい関係?なんだお前、息子と上手くいっていなかったのか?」
「いや~、嫌われてはいないが、ずっと離ればなれで父親らしい事をしていなかったからチョットな・・・」
ワーレンが苦笑する。そして、ワインを一口飲んでから、目の前の二人に事情を打ち明けた。
「俺は、アルフォンスが赤ん坊の頃からあちこち遠征して、あいつとは一緒に暮らすことも儘ならなかった。結局、生まれてすぐ母親を亡くしたアルフォンスを育てたのは、俺の親父やお袋さ。俺はあいつの成長を手紙のやり取りで知るようなもんだった」
ビッテンフェルトもアマンダも、ワーレンの話に聞き入っている。
「戦争が終わり一緒に暮らせるようになって、俺はやっとあいつに父親らしい事が出来ると思っていた。だが、祖父母育ちの息子とは、最初はぎこちなかったんだ」
「ぎこちない?」
ビッテンフェルトが思わず問いかけた。
「うん、アルフォンスは親父やお袋には素直に甘えるくせに、俺には遠慮するというか甘えてこなかったんだ。母親がいたら、同じ父親がいない状態でも、また違ったんだろうが・・・」
「アルフォンスは何歳になったんだっけ?」
「今年で7歳だ」
アマンダが慰めるようにワーレンに伝えた。
「そのくらいの年齢だと、男の子とも少年とも言える微妙な時期ですね。子どもながら一人前の顔をしたいときですし、幼児のように甘える事を恥ずかしく思ってしまったのかも知れません」
「うん、確かに一緒に暮らし始めた頃のアルフォンスはそんな感じで、俺には上手く甘えられずにいたのかも知れない。だが今は、一緒にスポーツ観戦をしたりゲームをしたりして、結構いい親子関係を保っている。あいつが手放しで甘えてくるような事もないが、それなりに共通の会話も増えて、お互い丁度よい距離が掴めてきた」
「そうか。アルフォンスも男の子から少年になったって事だろうな!子どもの成長って早いからな~」
ビッテンフェルトもワーレンも頷き合う。
「まあ、俺としては無邪気に甘えるアルフォンスとも、もっと関わりたかったがな・・・。父親なのに俺は、かわいい盛りの息子を知らないんだ。忘れているよりタチが悪いだろう?」
幼い息子と触れ合う機会を充分持てなかったワーレンが自嘲する。
「お前より俺の方が、もっとタチが悪いぞ!なんたって俺は、自分の娘が生まれた事すら知らなかったんだからな!」
ビッテンフェルトの言葉に、息子への感傷に浸っていたワーレンが思わず吹き出した。
「それにワーレン、お前の場合は戦争中だったんだ!俺たち軍人は仕方ないさ。それより、再婚して家族を増やすという選択肢はないのか?」
「いや、俺は、今の生活で充分満足している。それに、この状態を大事にもしたい。自分がそれほど器用じゃない事も判っているから、再婚は考えていないよ」
即答で返すワーレンに、ビッテンフェルトが頷く。
「まだまだ息子<アルフォンス>が優先か・・・」
「ああ!あいつが独り立ちして親父やお袋がいなくなった頃、一人が寂しくなって再婚を考えるかも知れないが・・・」
「その頃のお前に、相手がいればな!」
先ほどからワーレンにやり込められてばかりのビッテンフェルトが、お返しとばかりにニヤリ顔で言い返す。
「別に、一人暮らしでも構わないが・・・」
からかうビッテンフェルトをさらりとかわしたワーレンだが、ささやかな反撃をする。
「ビッテンフェルト、子どもの事では、お前だって油断できないぞ!予定しているあの遠征から帰ってきたとき、娘はお前の顔なんかすっかり忘れて、知らないオジさんが来たと思うかも知れないぞ!」
「宇宙遠征?」
アマンダが思わずビッテンフェルトを見つめた。
「黒色槍騎兵艦隊が出陣するような遠征があるのですか?・・・反乱の気配でも?」
「いやアマンダ、心配するな!きな臭いものではない!ただの訓練なんだ!」
一瞬、不安げな表情を見せたアマンダを、ビッテンフェルトが安心させる。
「その~、日程が正式に決まったら、お前にも話そうと思っていたんだが・・・」
言葉に詰まったビッテンフェルトと、夫の次の言葉を待つアマンダとの間で妙な間が生じたとき、三人の耳に赤ん坊の泣き声が聞こえた。娘の泣き声に、ビッテンフェルトがアマンダに伝える。
「アマンダ、こっちは大丈夫だ。俺たち勝手にやっているから、ルイーゼのそばにいてやってくれ!」
頷いたアマンダが、ワーレンに会釈をすると子ども部屋に向かった。
アマンダがいなくなり二人っきりになったリビングで、ワーレンがビッテンフェルトに問い掛ける。
「おい、ビッテンフェルト!お前、あの遠征の事、まだ奥方に話していなかったのか?」
「うん、まあな・・・」
「そうだったのか・・・。先に知らせてしまって悪かったな。今回は俺の方が先走ってしまったようだ・・・」
「いや、気にするな、ワーレン。アマンダにはずっと話そうと思ってはいたんだが・・・」
「ん?お前らしくないな!どうしたんだ?」
思った事はすぐ行動に移すビッテンフェルトにしては珍しいと、ワーレンが不思議がる。
「ワーレン、俺は<遠征は黒色槍騎兵艦隊が担当する>と決まったとき、<久々に艦隊を引き連れて宇宙にいける♪>と喜んだ。テンションが上がリ浮かれていた俺は、そのとき一時的とはいえ家族の存在をすっかり忘れていた。だから、何だかアマンダやルイーゼに対して後ろめたい気持ちになってなぁ・・・」
溜息混じりに話すビッテンフェルトを、ワーレンが慰める。
「ビッテンフェルト、それは仕方ないんじゃないのかな?俺だって、艦隊を引き連れて宇宙に行く事になったお前を、正直羨ましいと思った。俺もやっと息子との落ち着いた生活を手に入れて満足している筈なのに・・・。宇宙の魅力に憑りつかれた俺たちのどうしようもない性<さが>だな!」
ビッテンフェルトの気持ちに同意したワーレンが苦笑する。
「それもあるが・・・」
まだ何か理由がありそうなビッテンフェルトに、ワーレンが<話せよ!>と目で合図してけしかける。
「・・・あのな、ワーレン。お前から見てアマンダは、俺の事どう思っているようにみえる?」
「ん?・・・まあ、お前が彼女に惚れているのは判るが・・・」
僚友の意外な質問に、ワーレンが思わず答えをはぐらかす。
「俺の事は訊いていない!」
思い切って打ち明けたのに、話を逸らされたビッテンフェルトがふて腐れる。
「ビッテンフェルト、お前、まさか遠征中に奥方に逃げられる事でも心配しているのか?」
「いや~、そんな訳でもないが・・・」
思わず苦笑いになったビッテンフェルトが、ワーレンに本音を漏らす。
「ワーレン、俺はアマンダの考えている事が判らないときがあるんだ。あいつがこの遠征の事を知ったときの反応が読めなかったというか何というか・・・」
ビッテンフェルトらしくない言い方に、ワーレンが(何に対しても自信満々で突き進む奴なのに・・・)と珍しがる。
「もしかしてお前、奥方に愛されているという自信がないのか?」
直球で問い掛けるワーレンに、ビッテンフェルトが目を逸らして口ごもる。
「一応、必要とされているとは思うし、信頼もされているとは思うが・・・」
ぼそっと告げるビッテンフェルトに、ワーレンが首を振る。
(こいつでも弱気になるときがあるんだ・・・)
物事の白黒をはっきりさせないとイラつくビッテンフェルトを知っているだけに、ワーレンは妻のアマンダの気持ちをはっきり把握出来す悶々としている様子に驚いていた。
(まあ、彼女の方も感情を出さない性格のようだから、ビッテンフェルトも判りにくいのだろう。こいつも、変な勘は鋭い癖に、女性の心理には全く疎いからなぁ・・・)
含み笑いのワーレンが、ビッテンフェルトに告げる。
「ビッテンフェルト、お前、安心していいんじゃないのかな?俺には、彼女の方も、それなりにお前に情が移っている気がするぞ!」
「ホントにそう思うか?」
確認するビッテンフェルトに、ワーレンが大きく頷いた。
「お前のその厄介極まりない性格をいい方に捉えるっていうのは、まさに<あたばもえくぼ>と言えるだろうな~。まあ、夫婦の間が上手くいっている証拠だ。しかし、あの軍務省あがりの冷静な秘書官でも、情が移るとお前みたいな奴でもひいき目に見てしまうんだな。俺から見れば<何故?>と疑問に思う事ばかりだが・・・」
ワーレンが首を振ってからかう。しかし、そう言っているワーレン自身も、学生時代からビッテンフェルトの事をどんでもない奴と思いながらもずっと付き合っているのだから、アマンダと同類と言えるだろう。
「俺に遠慮なくずけずけ言うお前が、そう言うのなら安心だ!」
ほっとした様子のビッテンフェルトに、ワーレンが笑いながら付け足す。
「本当のところ、俺もお前達の関係が不安だったんだ。なんたってお前のオーベルシュタイン嫌いは有名だったし、彼女は奴と行動を共にしていた秘書官だった。子供の為とはいえお互いの価値観の違いに、そろそろ無理が出てくる頃じゃないかと心配もしていた。だが、実際にこの目で二人の様子を見て安心したよ。お前たち、結構お似合いだよ!彼女、お前の操縦も上手くこなしているようだし・・・」
ワーレンの率直な感想に、ビッテンフェルトも嬉しそうである。
「そうか!ミッターマイヤー夫妻からは、俺たちは<結婚してから恋愛している>と言われたぞ!」
「なんだ、ミッターマイヤー夫妻からもお墨付きをもらっているんじゃないか!確かにお前、恋愛したての男のように、彼女の一挙一動に振り回されている感じだしな!」
「いや、振り回されているつもりはないが・・・」
否定するビッテンフェルトを、鼻で笑うワーレンであった。
「しかし、ミッターマイヤー夫妻だって、結婚して何年も経つのに未だに恋人同士のように見える。まあ、ミッターマイヤー夫妻の場合は<結婚前も結婚後も恋愛している>というべきか!お前たちの方は、結婚前の付き合いがなかったから<結婚してから恋愛している>になったんだろう?」
「まあ、全く交流がなかったという訳でもないが・・・」
「うん、そうだろう!子供が出来ているわけだから・・・」
からかうワーレンに、ビッテンフェルトが頭を掻く。
「しかし、お前の娘は、随分いいタイミングで泣くもんだな!寝ているのに、まるでこっちの空気を読んだかのようだ」
「はは、赤ん坊っていうのは、母親の気持ちに同調するのかも知れない。なんたって、チョット前までは一心同体だったんだからな!」
「赤ん坊が母親の動揺を敏感に察したって事か・・・。しかし、第一印象がこんなに変わる女性も珍しいな。奥方はハイネセンで見かけたときとは偉い違いだ。恐らく、こっちが本来の姿なんだろうが・・・」
ワーレンの見解に、ビッテンフェルトが頷く。
「彼女が変わったのは、お前の影響か?」
「いや、俺じゃない。子どもの存在が大きい。ルイーゼが母親の感情を取り戻してくれたんだ。オーディンに戻るつもりだったあいつは、<子どもを産まない>っていう選択だってできた筈だ。だが、俺に知らせず一人で産んだ。あいつ『戦争が終わったのに、軍人を辞めたのに、人殺しをするのが嫌だった・・・』って言っていた。俺は、そんなアマンダを見て切なくなった。それにあいつ、未だに戦争時代の経験を引きずっているところもあるし・・・」
「まあ、あのオーベルシュタインの元にいたんだ。見たくないものもたくさん見てきたんだろう・・・」
ワーレンがアマンダの状況を察する。
「ルイーゼの存在が、アマンダの辛い経験を癒している・・・」
しんみり告げたビッテンフェルトに、ワーレンが「お前も一役買っているよ!」とウィンクする。
その後、二人とも新たに酒を継ぎ足し、飲みながらひと息つく。
「しかし、昔から女から逃げるのがロイエンタールで、女に逃げられるのがお前と相場が決まっていた・・・。お前、今度こそ逃げられないようにするんだな!お前を受け入れてくれる女性は貴重な存在だ!結婚したからって安心するなよ」
「大丈夫だ!」
ビッテンフェルトが胸を張る。
「それから、オーベルシュタインの名に、いちいち逆立つなよ!確かに奴は、俺たちにとっては嫌な人間だったが、軍務省にいた奥方にとっては、今でも奴は敬愛する上官なんだ!」
「そ、そんな事ぐらい判っている・・・」
口を尖らせたビッテンフェルトが、面白くなさそうに答える。
「だったらお前も、もう少し大人の対応をしろ!いつまでもそんな感じだと、彼女だって困るだろう?せっかく愛情が芽生えたのに、冷めて消えてしまうかもしれんぞ!」
ワーレンの脅しに、ビッテンフェルトが自重する。
「・・・奴<オーベルシュタイン>に関しては、スルーするように心がける・・・」
珍しく素直に忠告を受け入れるビッテンフェルトに、ワーレンが更に付け加える。
「それからお前、変なサプライズにも気を付けた方がいいぞ。昔からそれをやっては、相手からドン引きされて逃げられる事も結構あっただろう」
「あれは俺なりに女達を喜ばせようと考えて・・・」
「だったら贈り物も演出も、相手の好みに合わせるんだな!お前のセンスは、一歩間違うと危険だ!」
次々に注意事項を述べるワーレンに、ビッテンフェルトが苦い顔になる。
「・・・お前、もう帰れ!これ以上お前の話をアマンダに聞かせると、それこそあいつが逃げ出してしまう・・・」
ビッテンフェルトの言葉にワーレンが吹き出し、二人で大笑いになる。
「それにしても、黒色槍騎兵艦隊の兵士達は、お前の結婚相手に驚いているだろうな?」
「大丈夫だ!<俺が選んだ!>それだけで部下達<あいつら>は、アマンダを認める」
自信に満ちたビッテンフェルトの言葉に、ワーレンは黒色槍騎兵艦隊における彼のカリスマ性を改めて思い知る。
「せっかく縁あって一緒になったんだ。家族で仲良く暮らすんだな!」
「おう!」
ワーレンの想いを受けて、ビッテンフェルトがニンマリ頷いた。
ワーレンが引き払い、キッチンで片付けをしているアマンダに、ビッテンフェルトが近寄った。
「アマンダ、遠征の事、お前に知らせずに悪かった・・・」
「軍務の事は、家族にだって秘密にしなければならない事もあるでしょう。判っています」
<気にしていません>というように、アマンダが頷く。
「うん、確かに軍務の内容によってはそういう事もある。だが、今回の遠征はそれほどの極秘事項でもなかったんだ。只、俺が言いそびれてしまって・・・」
正直に伝えるビッテンフェルトに、アマンダが問い掛ける。
「フリッツ、その黒色槍騎兵艦隊の遠征の期間は長いのですか?」
「予定では一ヶ月となっている。まあ、今回は初めての試みでいろいろ試験的な部分もあるんだ。だが、この訓練は毎年恒例になる計画だし、徐々に訓練としての規模を大きくし、期間も長くなる可能性がある・・・」
「今回は一ヶ月ぐらいという事ですね。判りました。・・・でも、あなたがいない間、ルイーゼが寂しがりますね」
「・・・お、お前はどうなんだ?」
ビッテンフェルトがおずおずと尋ねる。
「あら、心配なさらないで!あなたの留守は、きちんと守りますから・・・」
「そ、そうか・・・頼むぞ!」
毅然と応じるアマンダに(まあ、軍人の妻としては模範的な言葉だが・・・)と思ったビッテンフェルトだが、妻の<自分も寂しい>という言葉が聞きたかっただけに少しがっかりしていた。
翌日、前々からエヴァンゼリンからお茶に誘われていたアマンダは、ルイーゼと一緒にミッターマイヤー家を訪れていた。
アマンダは、夫の留守を預かる艦隊司令官の妻として心構えを、先輩であるエヴァンゼリンに訊いて参考にしたいと思い、昨日知った黒色槍騎兵艦隊の遠征の件を伝える。
事情を知ったエヴァンゼリンは、邪気のない笑顔で問い掛けた。
「それでアマンダは、旦那さまに<遠征中はあなたがいなくて寂しい!>と伝えたのかしら?」
「いえ、フリッツは軍務で宇宙に赴くのですし、生死を伴う戦争時代を乗り越えた奥さま方に比べれば、訓練での夫の不在を寂しいと思うのは我がままのような気がします・・・」
アマンダらしい生真面目な言葉に、エヴァンゼリンがクスクス笑う。
「ビッテンフェルト提督はあなたが<自分がいないと寂しい>と甘えてくれるのを待っていたかも知れないわよ。アマンダだって、本当は寂しいと思っているのでしょう?」
覗き込むすみれ色の瞳に、アマンダが少し照れたように告げる。
「ええ、まあ・・・。結婚してからフリッツの存在がどんどん大きくなって、恐らく彼がいない生活は、物足りなく感じてしまう事でしょう・・・」
二人の元帥夫人が見合って微笑む。
「私は宇宙に向かうウォルフに、素直に<寂しい>と甘えていたわ!ウォルフは<エヴァのその言葉が、必ず生きて帰るという支えになる♪>と言ってくれていたし・・・。アマンダも、ビッテンフェルト提督にもっと甘えたらいいのに・・・」
エヴァンゼリンの助言に、「性分でしょうか、上手く振る舞えなくて・・・」とアマンダが苦笑する。
「私が思うに、アマンダはルイちゃんがビッテンフェルト提督に甘えるのを見て、それで満足している部分がない?」
エヴァンゼリンの指摘に、アマンダが自分の気持ちを顧みる。
「そうですね。確かにルイーゼとフリッツの触れ合いを見ていると、私はとても幸せな気持ちになります。自分の心が、それで満ち足りている感じはします」
思い当たったアマンダが頷く。
「でしょう!確かにルイちゃんは、あなたが産んだ娘だけれども、あなたの分身ではないわ!あなた自身が夫であるビッテンフェルト提督に甘えて、もっと自分の気持ちをアピールしなさい!それでなくても私達の夫には、強力なライバルがいるのだから・・・」
「強力なライバル?」
意味を理解できないアマンダが、窺うようにエヴァンゼリンを見つめた。
「ええ、艦隊の司令官には、宇宙に心を奪われてしまう性質があるのよ。ウォルフはよく言っていたわ。<宇宙に出れば地上のエヴァを恋しく思い、地上にいれば宇宙に心が向いてしまう>と・・・。現在<いま>のウォルフは軍務から離れて、宇宙との関わりは少なくなったけれど・・・」
「でも、フリッツはこれからも宇宙に赴き、その魅力に魅かれ続けていく」
エヴァンゼリンの言いたいことを理解したアマンダが、そのあとの言葉を繋げる。そして二人は、お互い顔を見合わせて微笑んだ。
「アマンダ、ライバルに負けないように、今のうちにがっちりとビッテンフェルト提督の心を掴んでおきなさいね!」
「ええ、今後は夫婦のコミュニケーションを深める事にします」
エヴァンゼリンの忠告に、アマンダはほんのり頬を赤らませて告げていた。
その日の夜、ルイーゼを寝かしつけてきたアマンダが、リビングでくつろぐ夫に声をかける。
「フリッツ、チョット小耳に挟んだ話ですが、<艦隊の司令官になる軍人は、宇宙に心を奪われてしまう性質がある>と聞きました。あなたもそんな感じになりますの?」
妻から不意に訊かれて、ビッテンフェルトは焦った。
(こいつ、あの遠征の話が持ち上がったとき、俺が喜びのあまり家族の事をすっかり忘れていた事を知っているのか?いや、気が付く筈がない・・・)
「まあ、そういう話は聞くが・・・」
ビッテンフェルトが努めて冷静に、まるで他人事のように答える。
「フリッツ、今度時間があるときに、プロの方にお願いして、正式な家族写真を撮りませんか?」
「ん?それは別に構わんが、いったいどうしたんだ?」
先ほどの質問と、家族写真を撮る事との関連性が掴めないビッテンフェルトが、アマンダに問い掛ける。
「今度の遠征には、是非あなたに、その家族写真を持っていって欲しいのです。そして、一日に一度はその写真を見て、私とルイーゼの事を思い出してくださいませんか?」
「?」
「遠征中の旦那さまの心が宇宙に奪われないように・・・せめてもの予防策です」
はにかむように告げたアマンダの姿は、ビッテンフェルトの心をキュンとさせた。
「軍務中のあなたにこんなお願いをするのは気が引けるのですが、フリッツが宇宙にいても私達の為の時間をさいてくださると思うと、私は嬉しいです」
アマンダの滅多にない告白に、ビッテンフェルトのボルテージは一気に急上昇する。
「アマンダ!俺は、遠征中、お前たちの写真を一日何回も見て、お前達の事を想うぞ!そうだ!朝、昼、晩とメシを食べる前に必ず家族写真を見る事にしよう!俺は、宇宙にいても家族との時間は大事にするぞ!」
力強く宣言するビッテンフェルトに、アマンダが微笑んだ。そして、自分から顔を近づけると、ビッテンフェルトの頬に軽くキスをする。
珍しいアマンダからの愛情表見に、最初は驚いたビッテンフェルトだが同時に愛しさが溢れだし、そのまま妻を抱きしめる。
夫の胸の中にいたアマンダが、ご機嫌なビッテンフェルトの耳元でそっと囁いた。
「フリッツ、いき込みは嬉しいのですが、司令官としての業務に差し障りのない範囲でお願いしますね・・・」
苦笑いで頷いたビッテンフェルトだが、突然ある事が閃いた。
「そうだ!家族写真用に、お前とルイーゼのドレスを新しく仕立てよう!」
「えっ?・・・いえ、わざわざそこまでしなくても・・・」
夫の申し出に、思わずアマンダが首を振る。
「いや、家族写真は正装で撮る!明日、仕立て屋を手配するから、ルイーゼのドレスと一緒にお前も好みのものを選べ!」
妻の制止を振り切って、ビッテンフェルトが主張する。
「あの~フリッツ、家族写真の件は、あまり大袈裟に考えないでくださいね」
窘めるアマンダに、ビッテンフェルトがニンマリと告げる。
「早く作らないと間に合わないぞ!それにお前が渋ると、俺が勝手にドレスを選ぶ事になる!」
「・・・」
センスのないドレスを想像したのか困っている表情のアマンダを見て、ビッテンフェルトが声を出して笑った。
「俺が選んだら、お前、困るだろう?いい機会だ!ついでに、靴とかバックなんかも一緒に選んで、一式揃えるんだな!」
ビッテンフェルトは、この<家族写真をとる為、妻のドレスを購入する>という流れを上手く利用している。
以前から彼は、アマンダにドレスやそれに伴うアクセサリーなどをプレゼントしたいと思っていたのだ。でもそれをすると、社交界に出る事を前提にしているような気がして、(アマンダが負担に思ってしまうかも・・)と思い控えていたのだ。
それにアマンダは、ビッテンフェルトが娘の為に買う物には鷹揚だが、自分へのプレゼントには釘を刺して決して買わせないようにするのだ。アマンダの購入するものは、実用性のあるものを最小限といった具合に、買い物にも全く無駄がなかった。
ビッテンフェルトは<欲しいものは、どんどん買っていいぞ!遠慮なんかするな!>と何度も言っていたが、アマンダにあれこれ買う様子は見当たらない。
(夫婦として一緒に暮らし始めてまだ日が浅い。アマンダは、俺に気兼ねしているのかも知れない・・・)
そんな風にも考えていたビッテンフェルトだけに、自然な形でアマンダにドレスを購入してもらうこのチャンスを見逃さなかったのである。
「そうですね。これから夫婦で社交界に出入りするようになれば、ドレスは必要になる事でしょう。フリッツの言う通り、今回は確かにいい機会かも知れませんね」
アマンダもドレスを仕立てるという夫の言い分を受け入れた。
ビッテンフェルトは(よし!)と心の中でガッツポーズをとりながら、更にアマンダに伝える。
「値段なんかは気にするな!遠慮しないで、豪華なドレスにするんだぞ!」
念を押すビッテンフェルトに、アマンダが告げる。
「私はあなたの隣にいるのですから、軍服と釣り合うドレスが前提です。その代わり、ルイーゼのドレスは思いっきり可愛いのを選びますので・・・」
「う~ん、どっちとも可愛いのにすればいいのに!」
ビッテンフェルトの言葉に、アマンダが微笑んでいた。
<続く>