フェリックスの心理(双璧再び)

 フェリックスが妻の為に計画していた<ハルツの別荘での出産>は、予定外の早産で達成できなかった。ミッターマイヤー家で娘エルフリーデを出産したヨゼフィーネは、そのままミッターマイヤー夫妻の元で一週間ほど過ごし、その後は、ビッテンフェルト家に移動して、産後の静養をしている。



 会議で顔を合わせたフェリックスに、アルフォンスが話しかける。
「赤ん坊のいる生活に慣れたかい? 」
「うん、毎日、赤ん坊中心に動いているって感じだよ。エルフィーの一挙一動に、大人たちが振り回されている」
 幸せそうに笑うフェリックスに、アルフォンスが教える。
「当分、そういう生活が続くぞ~!でも、義父上は、むしろそれを喜んでいるだろう。なんたって『フィーネの産後の静養は、ミッターマイヤー家になるかもしれない・・・』って心配していたくらいだから・・・」
「はは、フィーネ自身は、落ち着いたら自宅に戻りたがっていたんだ。でも、ハルツで過ごす予定が取りやめになって義父上はがっかりしていただろう。その分の埋め合わせも兼ねて、フィーネには暫く実家で過ごすように勧めた。まあ、うちの親父たちは、二人にはそのまま、ずっとミッターマイヤー家に居てもらいたかったようだけれど・・・」
 初孫誕生を身近で味わったミッターマイヤー夫妻は、その後、すっかり孫娘に夢中になっていた。
「自分たちの目の前で産まれてきた孫だから、ミッターマイヤー夫妻も可愛くてしょうがないんだろう。義父上の方は、自分の家で娘と孫娘に囲まれて上機嫌だよ。エルフィーは、もうすっかりみんなのアイドルだな。ルイーゼもうちの子供たちも、暇さえあればエルフィーの顔を見に行っているよ」
「テオやヨーゼフが、レオンハルト皇子を連れて来てくれるから、フィーネも嬉しそうだ。いろいろと助かるよ!」
 フェリックスが、テオドールとヨーゼフの父親であるアルフォンスに礼を言う。
「いや、ヨーゼフが言うには、最近はレオンハルト皇子の方から、いろいろ誘ってくるそうだ。レオンハルト皇子は、妹の誕生をきっかけに、なにか積極的になった感じがするな!」
「うん。エルフィーが産まれたとき、レオンハルト皇子はフィーネを、初めて『母上』と呼びかけた。あの堂々とした皇子の姿には、感動したよ。あれを見て俺は、昔、レオンハルト皇子の誕生をきっかけに、陛下がひと回りもふた回りも大きくなられたときの事を思い出した」
「確かに・・・。しかし、エルフィーの存在って凄いよな。俺たちが長年思い悩んでいたフィーネとレオンハルト皇子の関係を、あっという間に解決させてくれた。両陛下もとても満足そうだし・・・」
 ヨゼフィーネがレオンハルト皇子を身ごもってから、今に至るまでの様々な想いを知っている二人だけに、母子の良好な関係が築かれていることに胸をなでおろす。
「しかし、問題はうちの親父だな!まさか、親父があんなふうになるとは思わなかったよ・・・」
「孫フィーバーの事かい?ルイーゼから聞いて知っているよ!」 
 笑いを堪えるようにアルフォンスが頷く。
「<テオやヨーゼフにはできなかったピンクやフリルの可愛い恰好を、エルフィーには是非させたい!>って張り切っている筈のルイーゼが、『ミッターマイヤー元帥の勢いには敵わない!』って舌を巻いている」
「そうなんだ。俺はどちらかといえば、<義父上が孫娘に夢中になってしまうだろう・・・>と覚悟をしていたんだ。なのに、うちの親父の方が、あれほどテンションが上がりまくりになるとは思わなかったよ!いつもは、お袋と二人で夫婦中心に過ごしていて、俺達の事なんか全く眼中になかった感じなのに・・・」
 自分の父親であるミッターマイヤーのあまりにもの変わりようは、フェリックスを驚かせていた。
「仕方ないさ!初孫というのは特別らしいから・・・」
 ワーレン家とビッテンフェルト家の初孫となる息子テオドールを持つアルフォンスが、しみじみと伝える。その様子に、フェリックスがあることを思い出した。
「・・・そういえば、昔、テオが産まれたときに、あのミュラー閣下が有頂天になった姿を見て、キスリング隊長が<初孫は、人間をおかしくしてしまう何か不思議なものがある!>って言っていたな・・・」
「はは、そうだったんだ!まあ、ミュラー夫妻にとっても、ルイーゼが産んだテオは、初孫と同じなんだろう」
「確かに今の親父は、<頭のネジが一本飛んでいるというか、どこかの回路が一部ショートしている!>って感じだよ・・・」
「ミッターマイヤー元帥にしてみれば、エルフィーとは前世からの繋がりもある分、思い入れも強くなるんだろう!」
 アルフォンスのこの言葉に、フェリックスが(勘弁してくれよ~)といった様子で問いかける。
「アルフォンス、君までもが、エルフィーを俺の実の父親の生まれかわりだと思うのかい?」
「いや~、俺自身はそこまで感じていないが、俺の親父がエルフィーの顔を見るなり『これで、再び双璧が揃ったな!』と言っていた」
「ワーレン学長もか・・・」
 小さなため息をついたフェリックスに、アルフォンスが笑いながら伝える。
「まぁ、親父も義父上も、ロイエンタール元帥とは同期仲間だし、士官学校時代からよく知っている分、あの目には思い入れが強いんだろう。それに<伝説の双璧>と語り継がれているミッターマイヤー元帥とロイエンタール元帥の関係は、他の元帥達から見ても特別なものだったらしいよ。だから、あの義父上が珍しく祖父ちゃん同志で張り合わないのさ!『負けるのが判っている分、悔しいんだろう!』ってうちの親父は笑っていたよ・・・」
「ん?・・・という事は君の親父さんと義父上は、小さい頃のテオやヨーゼフを巡って張り合っていたのかい?」
 自分の娘を孫として共有しているビッテンフェルトとミッターマイヤーの両者の顔を思い浮かべたフェリックスが、心配になって問いかける。
「まあ・・・初孫のテオが生まれたときは何かとな!でもあの二人は、お互い張り合う事自体を結構楽しんでいた。だから、俺もルイーゼも呆れてはいたが、それほど気にしていなかったよ」
「そうか・・・。だが今回、孫フィーバーが来たのが、うちの親父だけで良かったよ。あの二人が張り合ったら、俺の手には負えないよ」
 首を振って身震いするフェリックスに、アルフォンスも同意するように頷く。
「ミッターマイヤー夫妻にとってはエルフィーは初孫だし、義父上の方は四人目の孫ということで、少し遠慮して譲っている部分があるんじゃないかな?」
「あの義父上が遠慮?・・・。まあ確かに、そんな感じはしないでもないけれど・・・。でも助かるよ。俺は、今の親父の相手をするだけで、どっと疲れてしまう・・・」
 苦笑するフェリックスに経験者のアルフォンスが「ミッターマイヤー元帥もそのうち落ち着くさ!」と言って、新米ファーターの肩を軽く叩いた。



 仕事帰りにビッテンフェルト家を訪れたフェリックスに、ヨゼフィーネが伝える。
「この子、あなたが来る夕方になると、おめめがパッチリになるのね。今日も、ヨーゼフとレオンハルト皇子が、エルフィーの顔を見に来てくれたのに、寝てばかりで申し訳なかったわ。結局、二人とも父上を相手にしていたのよ」
「はは、でも義父上とレオンハルト皇子は、先帝のラインハルト帝を崇拝しているという共通の趣味があるから、結構、話が弾むんだよ!だから、エルフィーが寝てばかりいても、それほど気にしなくてもいいさ!」
 父親の自分を待ち構えているようなタイミングで目覚めている娘に、フェリックスは祖父のビッテンフェルトや兄のレオンハルトに対し、少しばかり優越感を感じていた。それでつい、余裕の発言となっている。機嫌がよい感じに見受けられた夫に、ヨゼフィーネが話しかける。
「あの~フェリックス、ちょっと相談があるのだけれど・・・」
 改まって話す妻に、フェリックスも聞き入る。
「私、レオンハルト皇子が士官学校に入ってくるまでに、教官としてのスキルを深めたい。宇宙に行く経験もできるだけ積みたいし・・・。だから、時間が欲しいの。私としては、産休が明けた段階で、すぐにでも仕事に復帰したいと思っているけれど・・・」
「・・・それは、育児休暇は取らないということかい?」
「ええ、一年間もブランクを開けたくないわ・・・」
「君の気持ちは判るよ。反対はしないが、君はまだ産後の静養中だし、復帰するにしてもまず体調がしっかり戻ることが大前提だ。君もルイーゼも、夢中になると自分の体の事が二の次になるからね」
 夫の渋い顔を予想していたヨゼフィーネだが、フェリックスはあっさりと妻の産休明けからの復帰を容認した。
「私は大丈夫よ。順調に回復しているから、心配しないで!只、私が仕事をしている間、この子をどうするか・・・こちらの環境を整える方が大前提だわね」
「君は、エルフィーの事をどうするつもりなんだい?」
「ええ、実は軍の保育施設を利用する事も考えて、それとなくスーザンに相談してみたの。でも『今、女性軍人の妊娠、出産が多くて、預かるのは一般兵士の赤ちゃんが優先!将校クラスは自力で何とかしなさい!』って断られたわ」
 ヨゼフィーネが苦笑しながら、今の軍の実情を伝える。
「だろうな・・・。皇太后の<女性軍人が出産後も当たり前に職場復帰できる組織である事を、帝国軍の誇りとしてほしい!>というあのお言葉の影響で、今、女性軍人にベビーブームがきているし・・・」
「姉さん達は、『エルフィーはいつでも預かる!』って言ってくれるけれど、いつも当てにするのも悪いし、それに世話をする人が毎回変わるのはエルフィーも落ち着かないでしょう。やっぱり、乳母を探した方がいいのかしら・・・」
「う~ん、今すぐ結論を出さなくても・・・。まだ時間はあるから、もう少し検討してみよう」
 フェリックスはヨゼフィーネに、選択肢をいろいろ揃えてから、結論を出すことを勧めた。

やっぱり、フィーネの気持ちは教官への復帰に向いているか・・・
士官学校の進学を希望しているレオンハルト皇子と
<一緒に宇宙に行く!>というあの約束は、
フィーネの気持ちに大きな影響を与えている・・・
仕方ないかもしれないが、
できればフィーネには、育児休暇をとってもらって
エルフィーと一緒に、母と子の時間を
ゆっくり味わって欲しかったな・・・

 ヨゼフィーネのレオンハルトへの想いを知っているフェリックスだけに、妻の考えに理解を示して賛成はしてみたものの、心の奥で少しばかり残念な気持ちにもなっていた。



 明くる日、皇帝の執務室で、アレクとフェリックスがお茶を飲みながら一息入れていた。
「フェリックス、母上から聞いた話だが、お前、ミッターマイヤーからの同居の申し出を断ったそうだな?」
「えっ!親父の奴、皇太后にそんな事まで話したんですか?参ったな、全く・・・」
 呆れたフェリックスが、思わず顔をしかめた。
「昨日、王宮の庭の手入れに来たミッターマイヤーを、母上がお茶に招いたそうだ。そのとき、ちょっと小耳に挟んだようで・・・」
「親父は、エルフィーが産まれて以来、孫可愛さでチョット舞い上がっているんです。皇太后も呆れたことでしょう」
「いや、母上だって同じ類<たぐい>だ。先帝の生まれ変わりといわれる孫のレオンハルトを溺愛しているだろう」
 二人共、顔を見合わせて苦笑いをする。
「それに、私達が実家で暮らせば、あちらの義父上は面白くないでしょうし・・・」
「なんだ、気がかりはビッテンフェルトか?大丈夫だろう!ああ見えても、昔気質の性格だから、まず嫁ぎ先を重んじる。現にアルフォンスと結婚したルイーゼだって、ワーレンと一緒に住んでいるが特に問題はなかろう」
「まあ、そうかもしれませんが・・・。親父にその件を言われたときは、暫く親子水入らずで過ごしたい気持ちもあったので・・・」
 そう言ったあと、フェリックスは一呼吸おいてから、話を続けた。
「でも、フィーネが産休明け早々に、仕事に復帰したいと望んでいるので、我が家は使用人を雇う事になるでしょう・・・」
「ヨゼフィーネは育児休暇をとらないのか?・・・」
 一瞬、驚いたような表情になったアレクだが、すぐ察したようでフェリックスに確認する。
「レオンハルトとの、あの約束が原因だな?」
 ヨゼフィーネが育児休暇をとらず、すぐ仕事に復帰したがる理由に、アレクは気が付いたようだった。
「フィーネはレオンハルト皇子を皇妃に託したとき、<息子の役に立つ人間になりたい!>と決意したんです。軍人になったのもそれが理由です。その信念は、結婚しても娘が産まれても変わりません」
「そうか・・・。済まぬな、フェリックス」
「何を言っているんですか、陛下!どうか、謝らないでください!私は、初めから何もかも承知のうえで、彼女を愛しました。陛下がお気になさる必要はありません。それに、彼女は軍服を着ているときが、一番生き生きとしている」
 フェリックスは笑いながら、アレクに自分の気持ちを伝える。
「そうか・・・。しかし、それならば、ミッターマイヤーの申し出は悪い話でもなかろう。ヨゼフィーネはミッターマイヤー夫妻と仲が良いと聞いているぞ」
「ええ、まあ・・・」
「フェリックス、なんだかお前の方が、同居に乗り気ではないようだな?」
 言葉を濁すフェリックスの様子に、ピンと来たアレクがおもむろに尋ねる。
「娘が、父親の自分より祖父のミッターマイヤーに懐いてしまうのは面白くないか?」
 <はっ!>となったフェリックスの顔には明らかに動揺が見られた。
「隠しても私には判るぞ!お前とは生まれたときからの付き合いだ」
 核心を突いたアレクの言葉に、観念したフェリックスが素直に本音を打ち明ける。
「まったく、陛下には敵わないな・・・。ええ、そうです。誰も彼もが、エルフィーを私の実の父親のロイエンタール元帥の生まれ変わりと信じて、挙句の果てには『伝説の双璧の再来!』とまで言っている。親父はすっかりその気になって、一旦エルフィーを抱くと手元から離さなくなるし・・・。これで、もし一緒に暮らし始めたら、エルフィーは父親の私より親父との繋がりの方が強くなってしまいそうで・・・」
 今まで隠していた感情を一気にさらけだすフェリックスに、アレクは笑いながら受け止めていた。ひとどおりの愚痴を吐き出したフェリックスが、最後にポツリと呟いた。
「しかし、あちらの義父上ではなく、親父がライバルになるとは、予想外でした・・・」
 ずっと聞き役になっていたアレクが、何か思いついたようにフェリックスに伝える。
「フェリックス、お前が、一年間の育児休暇を取ったらどうだろう?」
「えっ?・・・私がですか!」
 フェリックスはアレクの意外な提案に驚いた。
「そ、その~、陛下は、一年間もの長い間、私がお側にいなくても平気なんですか?」
 皇帝の側近として、又、親友としても大きな信頼を得て、<自分は、陛下には必要な存在!>と自負していたフェリックスは、少し焦ったように確認した。
「いや、お前がいないと、私は困る」
「???」
「お前が育児休業中は、執務室でなく王宮の方へ、定期的に顔を出してくれないか?私はプライベートな時間に、お前と会う事にしよう。できれば、ヨゼフィーネやエルフリーデの都合が良いときは、一緒に来てくれたら私としては嬉しいが・・・」
「御意!」
 アレクの意図を理解したフェリックスが、すぐさま了承する。
「お前の育児休暇を利用して済まないが、レオンハルトには妹と触れ合うチャンスを、できるだけ作ってやりたいのだ。今の彼は、可愛い妹に夢中だし、夜中にこっそり地下道を通ってエルフリーデに逢いに行かれても困るしな!」
「ええ、確かに・・・。あれにはこちらも肝を冷やしました」
 エルフリーデが生まれた日のレオンハルトの行動を思い出した二人は、思わず含み笑いとなる。
「フィーネも、レオンハルト皇子とエルフィーには、できるだけ兄妹としての時間を作りたいと望んでいます」
「うん、こちらの事情をよく知るお前がエルフィーの面倒をみる事で、その時間も作りやすくなるだろう。それに、父親が育児休暇をとる事で、父と娘の濃密な時間が持てるし、祖父であるミッターマイヤーに負けない関係も築ける。ヨゼフィーネだって、エルフリーデのそばにお前がいてくれたら、安心して仕事に復帰できるだろう。お前が育児に根を上げて使用人を雇うまでは、望みどおり親子三人水入らずの時間を過ごせる筈・・・」
「エルフィーは、フィーネに頼み込んで産んでもらった大事な娘です。私が育児に根を上げるような事はありませんよ!」
(父親の矜持にかけても!)とばかりに、自信満々に言い切るフェリックスであった。
「母上のあの宣言の影響で、帝国軍の今後は女性軍人の活躍が増えるだろう。私の大事な側近であるお前が、<育児休暇を取る!>という事は、軍の中では勿論、世間に対しても、父親の育児参加の意識改革の上で大きな効果があると思うぞ!」
 確かにアレクの言葉どうり、<フェリックスが育児休暇をとる!>ということは、皇帝が部下の育児休暇を認めたという事である。昔の風潮の男尊女卑が根強く残っている組織である帝国軍に、これは大きな波紋を投げかけるだろう。それでなくても、皇太后の力添えもあって、今、軍の中では、女性が働きやすくなるための追い風が吹いている。そのうえ皇帝のアレクまで後押ししているとなれば、それは大きな後ろ盾となって、軍全体に影響を及ぼすに違いない。



 アレクと話がまとまったフェリックスが、早速ヨゼフィーネにそのことを伝える。
「君が仕事に復帰したら、俺がエルフィーの面倒を見るよ」
「えっ!それってどういう事?」
 夫の突然の宣言に、驚いたヨゼフィーネがフェリックスに問い質す。
「俺が子供を欲しがったから、君には、妊娠、出産と負担をかけた。だから、今度は俺の番だ。俺が育児休暇を取って、エルフィーの世話をする。君は心置きなく仕事に専念してくれ!」
「・・・でも、フェリックス、陛下のお側にいなくて大丈夫なの?陛下は、あなたがいないと困るでしょう?」
「陛下からはお許しがでたよ。条件付きだが・・・」
「条件?」
 首をかしげるヨゼフィーネに、フェリックスが説明する。
「陛下の条件は俺に『定期的に、王宮の方に通うように!』とのことだ。できればエルフィーや君を一緒に連れてきて欲しいとも仰った。育児休暇中の俺が、陛下とプライベートに逢う事で、レオンハルト皇子に妹と一緒に過ごせる時間を作ってやりたいそうだ」
「まぁ!・・・ありがとう、フェリックス」
(職場復帰、そしてレオンハルト皇子とエルフィーが兄と妹の触れ合いを持てるようにしてやりたいという私の希望を叶える為、フェリックスは陛下といろいろと話し合ったのだろう・・・)
 ヨゼフィーネは、自分の気持ちに応えてくれた夫や、協力してくれたアレクに感謝する。
「現実的に考えれば、いずれは使用人を雇う事になると思う。だが、俺がエルフィーの面倒をみているうちは、二人で育児を頑張ってみよう。親子三人だけなら、レオンハルト皇子だって気軽に我が家にも来やすいだろう。まあ、ルイーゼやお袋には手伝って貰うかもしれないが・・・」
 ヨゼフィーネがにこやかに頷き、そして、自分の感想を伝える。
「陛下の側近で、将官のあなたが<育児休暇をとる!>というのは、上層部が驚く画期的な出来事になりそうね。これで、今後父親になる軍人の育児休暇の申請がしやすくなると思うわ。スーザンが聞いたら、泣いて喜びそうな事例になるわね」
「確かに・・・」 
(これで、スーザンの俺に対する認識が、少しは向上するかな?彼女の前では、俺は、いつも振り回されてカッコ悪いし・・・)
 育児休暇の思わぬ副産物に、フェリックスは少しニンマリとなっていた。


<END>


~あとがき~
連載<絆(きずな)11>あたりから同時進行だったこのシリーズも、今回は<絆(きずな)>終了後のお話です。
待望の娘エルフリーデが生まれ、ロイエンタール家は三人家族となりました。
新米ファーター・フェリックスのライバルは、意外な事にビッテンではなく、初孫誕生でハイテンションになったミッターマイヤーでした(笑)
フェリックスに、育児休暇をとることを勧めたのはアレクです。彼もまた、皇帝である前に、息子レオンハルトを想う普通の父親でした。
尚、ルイーゼの息子テオドールが生まれたとき、有頂天になったミュラーさんは、<グロス・ファーターの心理(誕生)>で御覧くださいマセ(笑)