親愛なるEva お元気ですか。 僕はこちらの生活にも慣れて毎日元気にやっています。 きみは随分心配していたけれど、特に危険なことはありません。 最前線の要塞とはいっても、ここにもやっぱり家があるし、本屋もレストランも公園だってあるのです。 探せばさくらんぼの木だってあるかもしれないよ。 あの日、庭のさくらんぼの木に登ってきみと一緒に見た夕陽は、本当に綺麗だったよね。 あんな薔薇色の夕陽を見たのは初めてだったし、 きみみたいな女の子が僕に付き合って木の上まで来てくれたこともとても嬉しかったんだ。 ふたりで摘んださくらんぼで作ってくれたゼリーも美味しかった。 また来年の夏に帰れたら、今度はケーキを食べさせてくれるかな? きみの笑顔や美味しい料理が、僕の勇気の源です。 燕のように軽やかに動きまわるきみの姿を思い出すと、何だか元気が出てきます。 そんなに長い間ここにいるつもりはありません。 きっと武勲をたてて、きみや両親の待つ家に帰ります。 どうかそれまで、お元気で イゼルローンにて Wolf |
夜間飛行
「私のことを燕のようだとおっしゃるの?ウォルフさま。」
エヴァンゼリンは手紙を抱きしめ、窓から星空を見上げてそう呟きました。
イゼルローン要塞。それは銀河帝国の果てにある人工の星。この空のどこかにウォルフさまがいらっしゃる。でも、遠すぎて見ることは出来ないの。
神様、どうか願いを叶えて。
今夜だけ私を、星を航る燕に変えて。
私はベッドを抜け出し、燕になるの。
窓を抜けて、どんどん高く飛んでいく。空を越えてやがて宇宙へ。
方角は、きっとあの宇宙船が進んで行く方。
船を追い越し、光の速さで。
疲れたら彗星に乗って。
周りはまるで宝石箱の中のよう。黒ビロードに浮かび上がる無数の星々。
ちょっとだけ休んでいこう。
私は金色の星に降り立った。
『どこから来たの?』
振り向くと、1羽の燕。
「遠くからよ。オーディンという星から来たの」
『どこへ行くの?』
「イゼルローンよ。」
金色の星の燕は親切で、美味しいお水を飲ませてくれた。
『この星はとても美しい星なんだ。水も綺麗だし、美味しい木の実もたくさんあるし。ずっとここで暮らせばいいよ。』
「ありがとう。でも、ここにはウォルフさまがいないもの。イゼルローンへはウォルフさまに会うために行くの。」
『ウォルフって、どんな人?』
「私の、1番大切な人。」
『でもきみをおいていったんだろ?イゼルローンはまだずっと遠くだよ。』
「離れていても心はずっと一緒なの。信じているの。」
両親をなくしてあの家に引き取られたとき、私はとても寂しく不安だった。
おじさまもおばさまも親切だけど、本当の両親とは違うもの。
心配をかけないように明るくふるまっていたけれど、ベッドの中で時々泣いてたの。でも初めてウォルフさまに会った時、ぱあっと目の前が明るくなった。なぜだか分からないけど、もう大丈夫、安心していいんだって思ったの。
ウォルフさまのことが、大好きなの。
『何を考えているの?』
「あ、ごめんなさい。なんでもないの。私、もう行きますね。親切にしてくださってありがとう。」
『そう。本当はきみを引き留めたかったんだけど、無理みたいだね。』
金色の星の燕はちょっと残念そうにそう言いました。
「ごめんなさい。」
『僕こそごめん。本当はイゼルローンはすぐそこなんだ。送っていくよ。』
「まあ、本当?」
エヴァンゼリンは嬉しくなってそう言いました。
『遠い、って嘘をつけばきみの気持ちが変わるかもしれないと思ったんだ。ごめんなさい。許してくれる?』
「そうだったの。いいわ、許してあげる。その代わり、どうかあなたも幸せになって。」
『きみは幸せなの?』
「幸せよ。とっても。」
『あの回廊を通って行くんだ。気をつけて。』
「ありがとう。あなたも気をつけてね。さようなら。」
もうすぐ会える。大好きなウォルフさまに。
「ミッターマイヤー、どうかしたのか?ぼんやりして。」
「え?ああ、なんだか今、抱きしめられたような気がしたんだ。」
「は?何を言ってる、もう酔っ払っているのか。」
ロイエンタールは呆れたようにそう言った。
「酔ってなんかいないけど。でも本当にエヴァに…」
「エヴァ?誰だそれは、卿の恋人か?」
「恋人とはまだ言えないけどね。でもとても可愛い娘なんだ。やわらかなクリーム色の髪で、瞳は春のすみれ色で。そしてまるで燕のように…」
心は通じ合っている
たとえどんなに離れていても。
あなたと私のいるこの宇宙は、同じひとつの世界なのだから。
END
あきさんの「crimson clover」でカウント7777番を踏ん だ記念に頂きました。
難しいリクエストに答えてくださって、ありがとうございます。
難産だったようで、ご苦労様です(笑)
「心は通じ合っている。たとえどんなに離れていても」
なんとロマンチックな言葉でしょう。
エヴァの心の想いは、きっと空間を越えて、ミッタの心に届いた筈……