アマンダから託された指輪をアルベルトの元に納める為、ビッテンフェルトはオーディンの郊外にある帝国軍人戦没者記念墓地を訪れていた。そんな彼の前に突然現れた神父は、一礼した後ビッテンフェルトと挨拶を交わす。
「私はサイモン・クルトと申します。見ての通り神父をしていますが、軍人をしていた時期もありました」
「軍人!?」
目の前の神父が元軍人だと知ったビッテンフェルトが、(もしかして記憶にないだけで、俺と何か係わりがあった人物なのか?)と、改めて神父の顔を確認する。そんなビッテンフェルトの様子を見て、神父が微笑みながら伝える。
「閣下、私が軍人でいた時期は、ゴールデンバウム王朝時代です。残念ながら閣下との面識はなく、今回が初対面となります」
「そうか」
ビッテンフェルトが頷く。
(ここは、帝国軍人が永遠の眠りについている神聖な場所だ。彼らとの関連を考えれば、元軍人の神父がここにいる事は不自然ではない。しかし、この神父は、なんだか俺を待っていたように感じるが・・・)
疑問に思ったビッテンフェルトが、率直に神父に問いかける。
「貴殿は、俺になにか用があるのか?」
「閣下、私の事はサイモンとお呼びください。実は、私はずっと閣下に逢いたいと願っていました」
「俺に逢いたい?・・・いったいどういう事だろう?」
そう問いかけながらも、ビッテンフェルトは(それにしてもこの神父は、俺がここにいる事を何故知っていたのだろう?)と考えていた。ビッテンフェルトがこの時間に霊園に来たのは、予定外の偶然的な行動である。それなのにサイモンは、ここにいた。
不思議に思っていたビッテンフェルトに、サイモンがまず自分がこの場所にいた理由を伝える。
「私は<閣下の黒色槍騎兵艦隊が、陛下のオーディン行幸に随行する>という情報を得たとき、閣下は、きっとクルーガー少佐に逢いに来て下さると予想しました。偶然とはいえ、今日、こうして閣下に逢う事が出来たのは、神のお導きのおかげです」
そう言うとサイモンは天を仰ぎ、手を十字に切って神に感謝する。
ビッテンフェルトは、サイモンの<クルーガー少佐>という言葉に反応していた。
「サイモンは、アルベルトの知り合いなのか?」
驚くビッテンフェルトに、サイモンが頷く。
「ええ、クルーガー少佐は、軍人時代の私が最も尊敬していた上官でした。閣下がここに来て下さったという事は、クルーガー少佐と亡くなられた閣下の奥方のアマンダさんとの関係も御存じだと拝察致します」
「まあ、ある程度はな・・・」
(このサイモンは、アマンダとアルベルトを知っている人物だったのか・・・)
不思議な巡りあわせに故人の想いを感じて、改めてアルベルトの墓を見つめるビッテンフェルトであった。
そんなビッテンフェルトに、サイモンは長年思い続けていた想いを打ち明けた。
「私は閣下にずっとお礼が言いたかった」
「俺に礼?」
「ええ、アマンダさんを救ってくださいました。彼女が閣下と結ばれ、妻となり母となった。アマンダさんが幸せに暮らしている事が判って、私も救われましたから・・・」
ビッテンフェルトには、サイモンが<救われた>という理由に何となく見当がついた。彼はアマンダから、婚約者だったアルベルトは部下から慕われていた上官だと聞いていた。そして、そのアルベルトが亡くなった理由も、部下達を守るため貴族の上官に立ち向かい、その上官の腹いせの暴力が原因だったという事も知っている。(恐らくこのサイモンは、アルベルトのそのときの部下の一人なのだろう)とビッテンフェルトは思った。だが、自分に昔の事を打ち明けたがっているサイモンを感じ、敢えて問い掛ける。
「何故、アマンダが幸せになると、卿が救われるのか?」
「・・・あのとき、ウェイティングドレス姿のまま、駆け込んできたアマンダさんのあの悲痛な顔はずっと忘れられずにいました」
ビッテンフェルトの問いかけに、過去を振り返るように遠い目になったサイモンが、昔の出来事を語り始めた。
「私が軍人でいた頃、貴族出身の将校と些細な事で言い合いになりました。逆上した将校が拳銃を構えたのを見て、私は相手を押しのけて身を守りました。そして、カッとなった私がその将校を殴りかかろうとしたとき、周りにいた同僚達が必死に私を止めました。騒ぎを聞いて駆けつけた上官のクルーガー少佐が、仲裁に入ってくれました。事情を聞いたクルーガー少佐から、非を指摘された相手の将校は、一旦は引き下がりましたが、その後クルーガー少佐一人だけを別件で呼び出しました。相手の陰湿さを知っている私達は一緒に付いていくと申し出たのですが、クルーガー少佐は『大丈夫だ。心配するな!』と言ってお一人で出向いたのです。まさか、それが私達が知るクルーガー少佐の最後の言葉になるとは、思いもしませんでした」
「閣下にも憶えがあると思いますが、ゴールデンバウム王朝末期の腐敗した貴族社会は酷いものでした。貴族という特権の中で育てられた人間の中には、下の者の命など虫けら同然と思う者も多かった。プライドを傷つけられたと感じたあの将校も、自分の意に添わない者は排除するという考えの持ち主でした。クルーガー少佐はそんな貴族達の犠牲になったのです」
ビッテンフェルトがおもわず頷く。彼とて当時の状況は良く知っている。だからこそ、そんな貴族社会を改革して新たな時代を作り出そうとしていた先帝のラインハルトに心酔し、彼の麾下の元で戦ってきたのである。
サイモンは、当時の悔しさを思い出したのか気持ちを落ち着くために深呼吸して一息入れた。ビッテンフェルトはそんな彼に問い掛けた。
「俺はアマンダから、闇に葬られそうになっていたアルベルトを必死になって探し出してくれたのは、彼の部下達だったと聞いている」
「ええ、私達が行方不明になったクルーガー少佐を必死に探しました。やっと見つけだしたときは、クルーガー少佐とアマンダさんの結婚式が行われる予定の日となっていました。
「軍の倉庫の片隅に安置されたクルーガー少佐の無惨な姿を、駆けつけたアマンダさんは暫く呆然と見ていました。そのうち、ボロボロと涙を流し追い詰められたような様子になって、その場にいた部下の私達は、<彼女がクルーガー少佐の後を追って死を選んでしまうのでは?>と不安に駆られ彼女から目が離せなかったくらいでした。お二人の人生の最良の日になる筈だったのに、私がクルーガー少佐を巻き込んでしまった事で、アマンダさんを奈落の底に突き落としてしまったのです」
「誰もがアマンダさんに声をかけるのも憚れたそんな雰囲気の中で、彼女に声をかけたのはいつの間にかそこにいたオーベルシュタイン閣下でした。その後、アマンダさんはオーベルシュタイン閣下と行動を共にするようになりました。私はクルーガー少佐の亡くなった原因と状況を知った彼女の表情を知っていますから、少佐の敵<かたき>である貴族を滅ぼす為に、軍人になる事を選んだのだと思いました。逆に私は、軍の組織に嫌悪感を抱き退役しました」
「アマンダさんと最後に逢ったのは、クルーガー少佐を埋葬する直前の別れのときです。喪服姿で現れたアマンダさんは、あの日結婚式で使う筈だった結婚指輪を、少佐の左手の薬指にはめていました。そのときの彼女の左手の薬指には、同じ指輪が見えていました」
「そうか・・・」
(最後の別れの儀式が、そのときのアマンダにとっては愛を誓う指輪交換となっていたのか・・・)
「戦争が終わり、貴族社会も変わって、時代はローエングラム王朝となりました。アマンダさんの退役後の消息が判らず、私は(愛する人の仇討ちという目的を果たした彼女が、今度こそクルーガー少佐の後を追ってしまうのでは?)という不吉な予感に囚われました。心配になって、幾度もこの場所に来たものです・・・あっ、すみません。こんな変な予想をしてしまって・・・」
「いや、サイモン、その予想もあらかた見当違いでもない。あいつは、軍人時代にいろいろあって生きる事には後ろ向きになっていた。実際、退役後はアルベルトの墓があるオーディンに戻ろうとしていたんだ」
「なるほど、そうでしたか・・・」
ビッテンフェルトの『見当違いでもない』という言葉で、サイモンは当時のアマンダの状態を察した。
二人に少しばかり沈黙が訪れた。
「だからこそ、偶然、ご夫妻の幸せそうな結婚式の写真を見たとき、私は驚きました。そして『アマンダさんが生きていてくれた!』と本当にほっとしました。彼女が再び愛する男性と巡り合い、子どもにも恵まれ、ご自分の家庭を築いている。私は心の底から喜び、やっと救われた気持ちになりました。閣下がアマンダさんを幸せにしてくださったおかげです」
「『うん、そうだ!』と言いたいところだが、あいつを立ち直らせたのは、その頃生まれた赤ん坊のお陰なんだ。母親となってあいつは、やっと前向きに生きるようになった・・・」
苦笑しながら説明するビッテンフェルトに、サイモンが優しく告げる。
「閣下、赤ん坊はアマンダさん一人だけでは作れませんよ。閣下がアマンダさんにとって必要な人だから、神が縁を巡り合わせてくれたのです」
「はは、俺自身は、アマンダとは半ば強引気味に一緒になったという感じもするんだが、サイモンがそう思っているのなら、そういう事にして置こう」
照れたビッテンフェルトが、頭をかいた。
(そういえば、新婚の頃、ワーレンの『結婚の決め手は?』という質問に、あいつ『<お告げ>があった』って言っていたな。あれは神のお告げという意味だったのかな・・・)
ふと、昔のひとコマを思い出し、含み笑いになるビッテンフェルトであった。
実のところ、アマンダがワーレンに伝えた<お告げ>というのは、オーベルシュタインの声の事である。赤ん坊だったルイーゼと二人暮らしをしていたアマンダのところに、突然ビッテンフェルトが訪ねて来た。そのとき、逢う事を躊躇っていたアマンダを後押ししてくれたのは、空耳のように聞こえたオーベルシュタインの声である。アマンダ亡き後その事を知っているのは、今はフェルナーぐらいであろう。
ビッテンフェルトが<お告げ>の本当の意味を知らず神の声だと思い込んだ事は、オーベルシュタイン嫌いの彼にとっては、幸運な事だったかも知れない。
サイモンがおもむろにビッテンフェルトに告げる。
「閣下、過去も未来もアマンダさんの事を幸せにしてあげてください」
「ん?<過去>は判るが、<未来>もとはどういう事だ?あいつはもう俺の傍にいない」
サイモンの言葉にビッテンフェルトが不思議がる。
「残された人が幸せでないと、逝った人は心配で幸せではありません。だから、逝った人が心穏やかにいられるように、残された人は充分幸せにならなければなりません。だから閣下は、過去も未来もお子様たちと一緒にいつも笑って過ごし、アマンダさんが安心しながら夫と娘たちを見守る事が出来るようにお過ごし下さい」
「なるほど。いい話を聞かせてもらった。サイモン、今日は敬に逢えて本当に良かった」
「私も閣下とこうしてお話をする事ができて嬉しく思います」
風が流れる。
ビッテンフェルトとサイモンが振り返り、アルベルトの墓を見つめた。
墓前に供えられていたアマンダの指輪が、夕日を浴びてキラキラと黄昏色に輝いていた。
アンネローゼの夢の中
「ジーク、あなたはいつからラインハルトを敬称で呼ぶようになったの?以前は二人とも、お互い呼び捨てで名前を呼び合っていたでしょう?」
「特に他意はないのです。只、今はお互い階級社会の軍人ですし・・・」
「その事情<わけ>は判るけれど・・・。でも、軍服を脱いだプライベートな場所でなら、今までと変わりなくラインハルトとは呼び捨てで呼びあっているのでしょう?」
「いいえ、普段の生活の習慣が、職場でうっかり出てしまう事があるかも知れません。それを避ける為、私はラインハルトさまの呼び方を統一することにしています」
「ジーク、階級がどうであれ、あなたとラインハルトは、子どもの頃と同じようになんでも遠慮なく言い合える関係でいて欲しいのに・・・」
「アンネローゼさま、どうぞ、ご心配なく。呼び方はどうであれ、私とラインハルトさまの関係は以前と全く変わっていませんから」
「そう?・・・それだったらよいのだけれど・・・」
「ラインハルトさまは、軍の中で何かと注目されているお方です。これからは、優秀な部下も増えていく事でしょう。昔からの知り合いだからと言って、馴れ馴れしい振る舞いや言葉遣いをしていては、周りに対して示しがつきません。私自身、そういう特別扱いには、特に気を使わなければならないと思っていますので・・・」
「ジーク、貴方は本当に大人になったのね。ついこの間までラインハルトと無邪気に遊んでいた少年だったのに・・・」
心身ともに成長して頼りがいのある青年になっているキルヒアイスを見つめて、アンネローゼがしみじみと告げた。
「あっ、いえ・・・身長だけは伸びましたが、まだまだ未熟者ですよ」
アンネローゼに見つめられて軽く頬を赤らませたキルヒアイスが、照れたように伝える。
「ラインハルトは、私の弟というだけで、周りからの風当りが強いでしょう。彼はその風に反発するかのように、強さを求めてがむしゃらに突き進んでいます。でも、自分の目の前しか見ていないラインハルトは、周りに対する配慮が置き去りになっているような気がして、私は不安になります。だからこそ、ジークにはラインハルトの足りない部分を遠慮なくきちんと注意できる人でいて欲しいのです」
弟を心配するアンネローゼに、キルヒアイスが応じる
「アンネローゼさま、どうぞご心配なく。ちゃんと心得ております。ラインハルトさまの振る舞いや行いが人道的でない場合は厳しくお諫め致しますし、良い行動をなさったときはアンネローゼさまの分まで盛大に褒めて差しあげます。だから、アンネローゼさまは安心して私達を見守りください」
アンネローゼの心配を取り除くように、わざと大袈裟に伝えるキルヒアイスに、不安顔だったアンネローゼにも思わず笑みが零れる。
「ジーク、ありがとう。これからもラインハルトの事、宜しくお願いしますね」
「勿論です」
キルヒアイスが笑顔で頷く。
そのキルヒアイスの笑顔が薄らいだところで、アンネローゼは目覚めた。
懐かしい夢だった・・・
昨夜、アレクと夢中で話をしていた影響で
同じような年頃だった昔のラインハルトやジークを思い出してしまったのね・・・
アレクは親友のフェリックスから、
名前ではなく陛下と呼ばれた事を寂しく思っていた。
ラインハルトも、ジークからの呼び方が変わったとき、
アレクと同じように寂しく思ったのかしら・・・
ジークを喪ったとき
私は、住む世界が違うと言って
弟<ラインハルト>からが離れてしまった・・・
「ラインハルト」と呼び捨てで呼べる人物は、
私だけになっていたのに・・・
唯一の肉親に甘える事も叶わず
私から突き放されたあの子<ラインハルト>は、
孤独を感じていた筈・・・
朝の目覚めと共に、昔の弟<ラインハルト>の心境を追憶していたアンネローゼであった。
アンネローゼ&マリアンヌ
「アンネローゼさま、おはようございます。昨夜はとても楽しい時間を過ごさせて頂きました」
「ええ、そうね。私も楽しくてつい時間を忘れて話し込んでいたわ」
「陛下は思っていたより気さくな方で驚きました。生まれてすぐ皇帝となったお方ですし、周りも気を使って接してきたと思います。そのようにお育ちになった方ですので、本当のところ高飛車というかワンマンなご性格なのかな?と少し身構えておりました。でも、初対面の女官の私にまであんなに優しく気さくに話しかけて頂き、感激しました。陛下の中に庶民的な一面がある事に、嬉しく思います」
「ええ、あの子の母親であるヒルダさんが、幼いうちは帝王学を学ばせず、陛下を出来るだけ普通の家庭の子として育てたいと希望していました。アレクと一緒に住んでいた祖父のマリンドルフ伯も、娘のヒルダさんの意向を受けて、彼を育てていましたから、彼は周囲に威圧的にならず、むしろ出来るだけ皇帝という身分を感じさせないように自制するようになっているのかもしれませんね。まあ、特に今回はプライベートな旅行となっていますし」
「頂点に立つ皇帝が、初対面の身分の低い者までにあのように振る舞えるというのは、とても素晴らしい事と存じます。陛下は、とてもお優しいお人柄のようですね」
「今はヒルダさんが皇太后として表立って政務を取り仕切っているので、アレクの皇帝としての負担は少ないと言えるでしょう。しかし、時が経てば、皇帝としていろいろな責任を負う立場となります。この先、彼は厳しい采配や苦しい判断をしなければならないときもくるでしょう。今のアレクの優しい性格が仇<あだ>になって、アレク自身が悩んだり辛いと思う事も出てくるでしょう。まあ、上に立つ者として避けられない使命とも言えるのですが、その壁を乗り越えるだけの強さもアレクには必要になるのでしょうね・・・」
「アンネローゼさま?」
「ああ、年をとると、ついつい先々の事迄いらぬ心配をしてしまうものね。取り越し苦労をするのがすっかり癖になってしまって・・・」
マリアンヌ&アレク 「」
「この場所はいいな~。鳥の鳴く声で目覚めるなんて初めて経験した。こんな自然の中にいると自分の心に素直になれる」
「ええ、判ります」
人に安堵感を与えてリラックス効果が期待できます。 自然界にしかない木や川のせせらぎ、小鳥のさえずりなど心地よいと感じるものに「1/fゆらぎ」があるのだとか。
癒し空間が作りだされている点もログハウスの魅力だといえるでしょう。 生体リズムと共鳴し、自律神経が整えられ、精神が安定し、活力が湧くと考えられている
「私も亡き夫に連れられて初めてここに来たとき、<なんて素敵な場所なのだろう>と感激し、ここに住むことを嬉しく思ったものです」
「亡き夫・・・マリアンヌはどうやって愛するご主人の死を乗り越えられたの?あっ、マリアンヌが思い出す事が辛いなら、無理に答えなくてもいいよ」
「思い出すのが辛い時期は、もう過ぎました。でもアレクさま、どうしたのですか?」
「祖父を亡くしてから、落ち込むことが多くて・・・。参考にしたいと思っただけで」
「確かに最初は、アンネローゼさまに尽くす事が亡き主人コンラートの供養にもなると思って仕えていました。でも今は、アンネローゼさまの事を心からお慕いして、傍にずっといたいと思っています。あの方をお世話する今の仕事に、私は生きがいを感じております。
「以前、皇太后さまもこの山荘に来た事があるそうです」
「母上が?」
「ええ、門から山荘までのあの長い距離を、皇太后さまは歩いて来られたんですって。コンラートがそのときの皇太后さまのことを『貴族の令嬢育ちと思えないくらい活動的なお方だった』と驚いていました」
「なるほど・・・。確かに、息子の私から見ても、母上は普通の貴族のご婦人方とは違う人種だと思うよ」
「マリアンヌ、正直に言って欲しい。私の第一印象はどんな感じたっだか?」
「・・・気になりますか?」
「うん、少し気になる。でも、今までこんな事を誰にも訊いたことはない。マリアンヌだから訊いたんだ」
「まあ、アレクさま、私に心を開いてくださってありがとうございます」
「率直に申しますと、アレクさまに逢うまでは、この銀河帝国の頂点に立つ皇帝というだけで、何となく近寄りがたいイメージを持っていました。でも、実際に本人に逢ってみると、とても気さくに接して下さったので驚きました」
「なるほど、皇帝としての威厳は感じなかったって事かな?無理もないが・・・」
アレクが苦笑する。
「そんな、アレクさまは今のままで充分ご立派です。威厳は人生経験を積めば自然と備わってくるものと、私は思います」
「私はいつも自分に自信が持てなくて・・・。でも、マリアンヌにそう言って貰えると、素直に嬉しく思うよ。それに、ちょっと安心した」
アンネローゼ&アレク
アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム