王宮庭園内のモーツァルト像 |
前回は、東ドイツからやっとウィーンに辿り着き、一夜を過ごした後、感激の自家製ソーセージを味わったところまでお話しました。さて今日はいよいよカトリック教会付属の宿泊施設パロッティ・ハウスへ出発です。何分トランクの中は本だらけ、重くて大変でしたがどうやらその場所に到着しました。結構ボリュームのあるおばさんが出てきて、ああ、ヤパーナー(日本人)かというとすぐ部屋に案内してくれました。部屋代は朝食込みで一日250シリング(約2600円)、名前は不要、門限なし、お金はいつでも良いと言って部屋と建物の入口の鍵2個を渡してくれました。トイレとシャワーは共同ですが私の階には泊り客がそれ程無く、いつ行っても空いていました。もちろん部屋は洗顔や洗濯ができるようになっています。ここの水道はアルプスから直接引いているということで、日本一と言われる青森市の水に優るとも劣らぬ美味しさでした。宿泊施設には幾つかの教室と、数十人を収容できる個室がありますので、ふだんは研修施設として利用されているのかも知れません。
土曜の晩のミサにあずかった時のことです。ミサ中に司祭がちょっと手を動かして合図をしますと、右の前列にいたグループの先導でカノンが始まりました。バランスといい、音程といい申し分なく、夕暮れの中、数多く灯された蝋燭のゆらめきと相俟って、私は夢ごこちになりました。残響の多い聖堂の天井に最後の和音が消えたとき、ハッと我に返りましたが、無事ウィーンに到着して祈りの場に参加できた幸せと、神の計り知れない恵みを思い、心から主イエズスに感謝しました。聖体拝領時には前に座っているジプシー風の夫婦が、ギターを掻き鳴らしています。聖堂は200人も収容すれば一杯になる小さいものでしたが、この包み込まれるようなぬくもりは、大聖堂では決して味わえないものでしょう。
ミサの音楽に感動したのはもう一回あります。聖アウグスティーヌ教会は、歌ミサで有名な教会ですが、現在でもそこで、毎日曜午前11時から、専属の合唱隊や、時にはウィーン少年合唱団が聖歌隊としてミサに参加しているのです。椅子に座るためには何がしかのお金を払うのですが、立見(立ち聞き?)は無料です。私は一度だけ行ったのですが、立錐の余地もないほど混んでいました。聖堂の中で、しかもゴチック式聖堂で聴く聖歌は実にいいものです。歌っている聖歌隊の見える席は、さらに金がかかるので、私は当然無料の通路に立っていました。しかしその日の献金をかなり弾んでしまったのです。途中で歌われたモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が、あまりにも素晴らしかったものですから。
(以下次号) |
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