第1章 オギュゴス時代の大洪水(BC1750)

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Ogygus

1 はじめに
石器時代のGreece各地に人々が暮らしていた痕跡が残されているが、その人々がギリシア語を話していたかどうかは不明である。
古代ギリシア人の祖先は、Parnassus山の北側を西から東へ流れるCephisus川の上流に長い間住んでいた。Cephisus川は、古代ギリシア人にとって聖なる川と形容され、彼らの居住地の広がりとともに各地を流れる川にも同じ名前が付けられた。Sicyon、Argos、Athens、Eleusisの町、さらに、Salamis、Scyros島にもCephisus川がある。[1]
古代ギリシア人の系譜から、彼らの動きを追跡できるのは、BC1750年にCephisus川で大洪水が発生する少し前の時代からである。確認される最古のGreeks の名前は、Cleopompusとその妻Cleodoraである。Cleopompusの子Parnassusは、それまで散らばって住んでいた人々を一か所に集めて住まわせて町をつくった。Parnassusは、鳥の飛び方による占いを発明したと伝えられている。これは、Dodonaの巫女が鳩の飛び方を見て予言していたことと関連があるのかもしれない。[2]
Parnassusの名前はDelphiの背後に聳える山の名前になった。Parnassusが創建した町の名前や詳しい位置については不明である。

2 Ogygus時代の大洪水
Pausaniasは、Parnassusが創建した町が、Deucalion時代の洪水に襲われ、町の住人はParnassus山へ逃れて、新たにLycoreiaの町を創建したと記している。[3]
しかし、この洪水は、Deucalion時代ではなく、Ogygus時代であった。

2.1 Ogygus時代の洪水の年代
BC2世紀の年代記作者Castor of Rhodesは、Ogygus時代の洪水から初代Athens王Cecropsまで、190年だと伝えている。[4]
Cecropsの即位年は、Castorが記す歴代のAthens王の在位年数から逆算すると、BC1561年であり、Ogygus時代の洪水は、BC1750年頃と推定される。[5]
また、AD5世紀の神学者Jeromeの年代記は、Ogygus時代の洪水は、BC1757年だと記している。[6]
BC6世紀の神話学者Acusilausは、Ogygusが最初のOlympiadから、1020年前だと伝えており、CastorやJeromeと、概ね合致する。[7]

2.2 Deucalion時代の洪水の年代
青銅器時代、偶然にも2人の異なるDeucalionの時代に大洪水が発生していた。
1)|Hellenの父Deucalionの時代
BC1511年、Hellenの父DeucalionがThessaly地方に住んでいた頃に大地震があり、川が堰き止められて大洪水が発生した。[8]
2)|Amphictyonの父Deucalionの時代
BC1390年、Thessaly地方に攻め込んでPelasgiansを追い出したAmphictyonの父Deucalionの時代に、Aegean Seaで大津波が発生した。[9]
最初のDeucalionにもAmphictyonという名前の息子がいて、2人目のDeucalionと混同して、伝承に登場している。[10]

3 各地への移住
洪水が発生したCephisus川から多くの人々が、新天地を求めて、各地へ移住した。
DelphiansはParnassus山へ、OgygusはCopais湖の近くへ、Inachusの息子たちはPeloponnesus半島へ移住した。

3.1 Delphiansの移住
Cephisus川の近くから、Parnassus山へ逃れた人々は町を作った。指導者の名前は不詳であるが、妻の名前は、Coryciaであった。息子の名前はLycorusで、町は、Lycorusの名に因んでLycoreia と呼ばれた。Lycorusには息子Hyamusが生まれ、Hyamusには娘Celaenoが生まれ、Celaenoには息子Delphusが生まれた。その後、荘厳な地に町がつくられ、この息子の名に因んでDelphiと名付けられた。[11]
Delphusには息子Pythesが生まれ、息子の名に因んでDelphiは、Pythoとも呼ばれた。[12]
Delphiの創建は、大洪水の時代から5世代目のときであり、BC1650年と推定される。

3.2 Ogygusの移住
3.2.1 Boeotiaへの定住
Ogygusは、Ectenesを率いて、Cephisus川に沿って下り、Copais湖の南東に定住した。Ectenesは、東はAulisの町から、西はAlalcomenaeの町までの範囲に居住した。[13]
Thebesの町の北の一番古い門には、Ogygusの名を残している。[14]
Ogygusの子Eleusisは、さらに南へ移住し、Saronic Gulfに注ぐ川の河口付近にEleusisの町を創建した。その川は、Cephisusと名付けられた。[15]

3.2.2 Boeotiaからの大移動
BC1580年、Ectenesは、Hyantesなどの他種族から圧迫を受けて、Copais湖の近くから各地へ移住した。[16]
それまで、Ectenesと呼ばれていた、Boeotia地方の住人はHyantesと呼ばれるようになった。[17]

3.2.2.1 Atticaへの移住
Attica地方に移住したEctenesは、Attica地方北東部に散らばって居住した。
この移住から約115年後に、第4代Athens王Erichthoniusの娘Creusaの夫Xuthusは、周辺から人々を集めて、Oenoe、Marathon、Probalinthus、そしてTricorynthusという4つの町を建設した。[18]

3.2.2.2 Thessalyへの移住
Hellenの父Deucalionの祖父に率いられた集団は、Thessaly地方へ移住した。[19]
後に、Hellenの兄弟Amphictyonや、Hellenの子Xuthusは、Athens王の娘と結婚した。
Deucalionの祖父と第2代Athens王Cranausの祖父とは兄弟であったと推定される。[20]
Deucalionは、Thessaly地方の北部を流れるPeneius川に南から流れ込むEnipeus川の源流付近に住んでいた。彼は、Pyrrha (後のMelitaea)の町を創建した。[21]
BC1560年、Deucalionの父の時代に、Peloponnesus半島のArgosの町からLarisa一家がThessaly地方に移住して来た。Larisaの子Pelasgusの子Haemonの時代には、Thessaly地方はHaemoniaと呼ばれ、Deucalionの子Hellenが住む地方は、Hellasと呼ばれていた。[22]
Deucalionの子Hellenは、父から独立してEnipeus川の対岸にHellasという町を作ったが、大洪水に襲われた。[23]
この大洪水は、「Deucalion時代の洪水」として知られるものであった。Thessaly地方北部を震源とする大地震による山塊の崩落や土地の隆起が起こった。広大な沼の水がPeneius川に流れ込んで、上流まで洪水が発生した。[24]
この洪水は、初代Athens王Cecropsから第2代Athens王Cranausに代わった年に起こったもので、BC1511年であった。[25]

3.2.2.3 Egyptへの移住
Cranausの祖父であり、恐らく、初代Athens王Cecropsの父であった人物は、EgyptのNile Deltaへ移住してSaisの町を創建した。[26]
Cecropsは、移住したとき、16歳であったと推定される。
Cecropsはギリシア語の他にもう一つの言語を話すことから、「two-formed」という意味を持つDiphyesという呼び名があった。「2つの言葉を話す」という意味であった。[27]
Cecropsは、Boeotia地方のTriton川のほとりにEleusisとAthensの町を創建したと伝えられており、彼は、Boeotia地方に縁があったと思われる。[28]
また、Cecropsの父には、Ogygusという名前の兄弟がいて、EgyptにThebesの町を創建した。[29]
そのThebesの町は、後にCadmusが生まれる町で、Nile Deltaにあったと推定される。[30]

3.3 Inachusの息子たちの移住
Inachusの2人の息子たち、AegialeusとPhoroneusに率いられた人々は、Peloponnesus半島へ移住した。[31]
いくつかの伝承は、Inachusの子Phoroneusの時代に、Ogygus時代の大洪水が発生したと伝えている。[32]
Aegialeusは、Peloponnesus半島に入ってすぐの海岸地帯を定住して、Aegialeia (後のSicyon)の町を創建した。[33]
Phoroneusは、さらに南下して平野の端に定住した。Phoroneusは散らばって住んでいた人々を一箇所に集めて、Phoroneus (後のArgos)の町を創建した。[34]
また、Inachusの娘の名前に因んで名付けられたMyceneの町も、Phoroneusの町と同じ頃に創建されたと思われる。[35]
Mycenaeの町は、Sicyonの町とArgosの町を結ぶ交通の要衝に位置していた。

おわり

Create:2019.7.3, Update:2025.8.15